長野県下高井郡にある、人口約4,500人の木島平村。人口減少や少子化に課題を持つ木島平村では、一般社団法人 木島平村観光振興局が中心となり、地域の魅力を引き出し、発信することに力を入れています。
22年12月、木島平村ではSO TechnologiesのDX・デジタルマーケティング人材育成サービス「ジッセン!」が提供している「デジタルマーケティング基礎講座」を、村の事業者に向けて開講しました。
今回のインタビューでは、木島平村が抱えている課題や「観光」に対する考え方と取り組み、講座開催に向けての課題と期待、成果などについてお話を伺いました。
お話を伺ったのは、一般社団法人 木島平村観光振興局の江口 哲史様、長野 安那様です。
Sammary
ご利用団体名 一般社団法人 木島平村観光振興局 |
一般社団法人 木島平村観光振興局
江口 哲史 氏
木島平村地域活性化企業人。木島平村の観光振興局の組織作り支援と、地域支援に繋がる情報のコンテンツ化・発信を支援。
長野 安那 氏
長野市出身。地域おこし協力隊。観光振興局にて、SNSを活用した情報発信を担当
木島平村について
「里山×人づくり」をコンセプトに木島平村のファンを増やしたい
木島平村(きじまだいらむら)についてお教えください。
江口氏:信州・長野県の北部に位置する木島平村は豪雪地帯であり、スキー場としての歴史があります。現在はロマンスの神様スキー場として知られているほか、素晴らしい里山が広がっています。扇状地に棚田のように田んぼが並び、山があり川が2本流れている、THE・里山という魅力に溢れた地域です。
木島平村が抱えている課題についてお教えください。
江口氏:木島平村は平均年齢が53.4歳、子ども世代は50代の1/4程度しかおらず、加速度的に少子高齢化が進んでいます。観光地としてのスキー場の運営は全国的にも厳しく、以前のように村民の冬場の雇用を支えるものではなくなってきている状況です。木島平村に限らず、過疎地域の人口減少の波は止められるものではないですが、人口減少のカーブを緩やかにさせることが目的としてあります。そのために木島平村のファンづくりに力を入れています。たびたび足を運んでいただける、いずれ都会からの移住を考える際に候補にしていただけるといった、関係人口、定住人口を増やしていきたいと考えています。
木島平村としての「観光」は人を呼び込むものではなく、地域の魅力を伝える入口だと考え、無理やり作り出した観光資源ではなく普段の日常を切り取った魅力を発信するよう力を入れています。
ファン作りにつながる取り組みの例をお教えください。
江口氏:まず、魅力を伝えていく上で軸となる「人づくり×里山」という観光コンセプトを作り、Webサイトをリニューアルしました。木島平村は15年ほど前から、豊かな人間性を育む教育に力を入れてきた背景があることから、教育の村であると言えます。教育を「人づくり」と言い換えることで、観光に活かせる魅力となるのではと考えました。
Web上だけではなく、村の日常をコンテンツ化するための様々な取り組みを実施しています。例を挙げると、国立公園内にあるカヤの平高原の施設を整備し、子どもたちを含めた村内外の人に愛される場所にするための施策をうったり、村内で自転車ツアーを開催したり、そば打ち名人による体験を旅行客向けにアレンジして展開するなどです。
観光振興局運営「めぐる木島平」 Webサイト
(左)素晴らしいブナ林が広がるカヤの平高原 / (右)7月に開催されたE-BIKEツアー
受講の背景
村民のリテラシー向上と、発信力向上による情報集約の効率化に期待
「デジタルマーケティング基礎講座」を知った背景をお教えください。
江口氏:情報発信に力を入れていくにあたり、SNS活用を進めたいとずっと考えていたのですが、私自身SNSのプロフェッショナルではないですし、インフルエンサーを連れてくるのも少し違うと思っていたところ、島根県雲南市で取り組まれていた「デジタルマーケティング基礎講座」を知り、すごくいいなと思ったんです。雲南市と比較すると村内(対象地域)の事業規模の差はありますが、抱えてる課題感はほぼ同じでした。この講座を通じて、事業者様が自身の事業に立ち返り、誰に何をどのように発信するかを言語化できそうだと考えていました。
講座実施にあたりどのような課題があったのでしょうか?また、講座に期待していたことをお教えください。
江口氏:木島平村の魅力を伝えるSNS活用における大きな課題は2点ありました。
まず1点目は人材がいないことです。SNS発信には興味があるけれど、何からやれば良いかわからないといった状況で、背景には経営規模が小さい、若い方が少ないことに加え、そもそも(事業者様が)Instagramを見ていないといったリテラシー面での課題もありました。「デジタルマーケティング基礎講座」が、すでに関心を持っているSNSを活用するきっかけとなり、リテラシー向上につながるのではと期待していました。
2点目は観光振興局として、村の中で情報が持ち上がっていないことを課題に感じていました。木島平村観光局で運用しているInstagramでも情報発信をしていますが、ゼロから情報を探しに行かなければならない状況でした。事業者様が少しずつ発信することができれば、こちらの情報集約の労力も大幅に減るため、SNS活動しやすい環境を作ることが裏テーマでした。
講座の活用方法
講座のレベルにフィットした3割の参加者が行動に移すことに成功
22年12月に全3回の講座を実施しました。ご感想をお聞かせください
江口氏:開催できて良かったと思います。受講者は全3回で34名、農家や宿泊事業者、ケーキ屋など多様な業種で、年齢層も20代~60代まで幅広い方が参加されました。受講者のレベル差もありましたので全員ではないですが、なんとなく運用するのではなくしっかりと目的意識を持つこと、事業を言語化すること、フォロワー数ばかりを気にするのではなく届けたい人にメッセージを届ける意識付けを実現できたように思います。
講座後に直接お話する機会もあったのですが、眠らせていたアカウントを使ってみる、プロフィールの文章を変えてみた、写真の雰囲気を変えてみたなど、少しずつ変化を感じるフィードバックもいただいています。
講座受講後の成果としてはいかがでしょうか。
長野氏:受講後のアンケート結果としては満足度は10段階の7.6、今後同様の講座があれば参加をしたいという方も9割を超えています。何を言っているのか分からなかったという方はほぼおらず、受講者の半数は今回伝えたかったことを理解されていたように思います。その中で3割程の方が講座で学んだことを実際の活動や行動につなげることに成功したと感じています。
江口氏:この3割の方がレベル設定にフィットした方でもあると考えており、今回の結果は今後に繋げていけるポジティブな数字だと認識しています。また、印象に残っている点として、1事業者で複数名参加していたところはその場でミーティングや質問ができており、その後の投稿もより活発になっています。
受講内容を活かした実施事例があればお教えください。
長野氏:アクティビティ・宿泊・農業の3事業を展開している有限会社スポーツハイムアルプでは3名でSNSを運用していますが、発信できる情報が多く何から投稿していいのか判断がつかず投稿自体にストレスを感じていらっしゃいました。受講後から、ペルソナ設定と運用目標を立てたうえで投稿されており、木島平のファンをつけてうちに遊びに来てくれるよう方向性をそろえられたことがよかった、投稿ストレスが減った、とお話をいただきました。
3アカウントと、最近1つアカウントを追加開設されており、アカウントごとの目標を立てることによって運用しやすくなったともお話されていました。ランニングのイベント用アカウントでは、1,400人が参加し予約殺到するイベント開催状況の形成に寄与しているのではないでしょうか。
ランニングイベント情報、全体活動やスタッフの楽しげな様子などを使い分けている。
長野氏:木島平村の観光振興局のアカウントでは、ただ観光情報を出すだけでなく、目的をもってユーザーの興味をひくような内容を投稿するようになりました。例えば、昔ながらの伝統文化が残っている夏祭りや、雪国ならではの文化、「何だろうここ」と興味を持ってもらえるような投稿を意識するようになりました。
今後の展望や、ご要望などがあればお教えください。
長野氏:知識や理解のレベルに合わせたフォローアップが全員に必要だと感じています。観光振興局独自で、今回参加された初心者の方や参加できなかった事業者向けに「インスタグラムなんでも相談室」を月に一度設けていますが、理想としては、年1回などの定期的な講座開催や、今回行動に移せた3割の方に向けたパーソナライズ講座を実施するなど、フォロー施策は課題であり考えていきたいところです。
江口氏:同規模の地域では、コスト面も課題としてあると思います。例えば木島平村でひとり2万円で50人集める、などは現実的ではありません。参加する人は減ってもその人たちをしっかり支援して地域のロールモデルを育てていくなど、今後のプログラムの組み立て方も重要だと考えています。
メッセージ
地域の規模は関係ない。誰に何を伝えたいのかを言語化するきっかけに
最後に、御社と同じような課題を抱えている地方自治体様に向けて、アドバイスと、メッセージをお願いいたします。
江口氏:ほぼ個人事業主のような事業者様が多い木島平村で、今回のような講座がどこまで有用か、やる意味はあるのかと不安な気持ちもありましたが、事業者さまの規模はあまり関係ないということが分かりました。たとえば農家であれば、先祖代々受け継いできたものがあり技術こそアップデートしていても、競争も少なく発信する機会もあまりありません。今回の講座を通じて、改めて自身が作るお米の良さは何か、誰に美味しいと思ってもらいたいのか、誰に残していきたいのかなどを考え、言語化するきっかけになったと考えています。
デジタル講座は木島平村でも有用だったと感じているので、デジタルネイティブな若い世代が多い地域ではさらに有用ではないかと思います。
また、いま村で何が起きているのかの情報は、発信されなければ小さな村でもわからないんです。どのようなお客様がきているのか、お庭にこんな花が咲いているなど、小さな情報でも事業者側から発信される状態を作っていくことが、情報発信をするうえで非常にありがたく、重要だと考えています。
さいごに
今回は、一般社団法人 木島平村観光振興局の江口哲史様と長野安那様にお話を伺いました。ファンを増やしていくにあたり、興味を持っていただくきっかけとしての観光に注力していく中で、事業者様の情報発信は不可欠です。発信力向上に必要なリテラシーや考え方を学ぶことでどのような変化が見られたのか、具体的な事例も多数お伺いすることができました。
同様の課題を持つ自治体にも参考にしていただけるのではないでしょうか。この度は、貴重なお話をありがとうございました!
【企業情報】 ■一般社団法人 木島平村観光振興局 長野県下高井郡。長野県北部に位置する豪雪地帯。村の8割を森林が占めており、キャンプや登山、トレイルランニング、ウィンタースポーツなど、様々なレジャーやスポーツが楽しめる自然と人が共存する山村。 めぐる木島平 Webサイト https://kijimadaira.org/ |
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